トンプソン教授のテンペラ画の実技  

佐藤 一郎 監訳
ダニエル・バーニー・トンプソン 著

「トンプソン教授のテンペラ画の実技」について
 テンペラ画は、油以外の媒剤(主に卵黄)と顔料を混合して使う技法であるが、人類に知られている画法の最古のものである。ジオット、リッピ、ボッティチェリ、ラファエロ、ティツィアーノ、ティントレット、その他の多くの名匠達の描いた数々の絵画と同様に、古代エジプトやバビロンの壁画はテンペラである。しかし、歴史が証明する卓越したこの技法は、明らかに油彩画をしのぐ多くの優位性をもちながら、現代の画家達からはその価値にふさわしい注目を受けていない。
 この軽視の一因として、確かなことは、テンペラ画の材料や手順に関する十分な情報がないということがある。実際、完全に信頼できて権威のある、手順をひとつひとつ詳細に扱った本は、本書が唯一のものである。D・V・トンプソン・ジュニアは、大英博物館や各地で、長年にわたり膨大な中世やルネサンスの文献を徹底的に研究した後にこの本を書いた。疑いの余地なくテンペラの材料や手順に関する世界でも屈指の権威である。

 著者は、テンペラ画の技法とその適応範囲の紹介をはじめ、木板(パネル)の選択、さまざまな木材の特性、箔貼りをするための木板(パネル)の準備、ジェッソ地の作り方、ジェッソの塗り方、テンペラの素描の仕方、着色紙の使用、木板(パネル)への金属の箔置き、箔貼りの道具、金箔の扱い方と置き方、金箔と銀箔の組み合わせ、顔料と筆、パレットの選択、テンペラ媒材の調合、顔料の練り合わせ方と扱い方、実際の描画の基本、モルダント金箔処方、テンペラ画の耐久性、ワニス塗布、人工乳濁液による絵画などにわたる内容を網羅している。日本語版は東京芸術大学大学院のご協力により、材料や技法を詳細に説明する写真や図解が豊富であり、監訳者・佐藤一郎先生のテンペラ画研究20年の成果が内容を非常にわかりやすいものにしている。
 この古くからの技法に関して、現代でも使える多くの方法を含む正統なテンペラ画の入念な解説書は、本書に並ぶものはない。真剣にテンペラ画を研究しようとするものにとって、これは必携の書である。

* 原書は イタリア・フィレンツェのウフィッツィ美術館のミュージアムショップでも販売されています。


『美術の窓』 200510月号より

《新刊案内》

『トンプソン教授のテンペラ画の実技』技法書)

ダニエル・バーニー・トンプソン著

佐藤 一郎 監訳

テンペラ画技法解説の決定版

 初期イタリア・ルネッサンスにおける、金箔背景の卵黄テンペラ画の技法で描いてみようとする画家、画学生、絵画愛好家のための絵画材料、絵画技術書であり、欧米諸国においては永年出版され続けているベストセラーである。著者がチェンニーニの『絵画術の書』を読み込み、実地にテンペラ画を制作・指導しながら研究した成果であり、現在入手できる絵画材料を用い、初期イタリア・ルネッサンスの絵画技術で完成させることを同書は目指している。

書評から
『月刊美術』2022年1月号
 1936年出版の「The Practice of Tempera Painting」を翻訳して2005年に日本語訳として出版された第1版を、本文をわかりやすくし、図版と訳註を加えて現代に学ぶ人たちの益とした改訂第3版。
インターネットで絵の具など材料が買える海外の店一覧に、人類の遺産を現代に繋ごうとする佐藤一郎氏の強い意思を感じる。

『新美術新聞』 2022年4月21日付
 中世イタリアの画家チェンニーニによる『絵画術の書』の内容をわかりやすく解説し、欧米の画学生や絵画愛好家たちを中心に読み継がれてきたロングセラーの邦訳。
伝統的なテンペラ画の表現の可能性と限界に触れつつ、支持体から素描法、鶏卵を使った媒材の調合に至るまで詳述する体系的かつ実践的な内容は、原著刊行から90年近く経つ現在でも古びていない。
東京藝術大学大学院で撮影されたテンペラ画実習風景写真などの図版も多数掲載され、理解の助けになる訳注も充実。テンペラ画を専門的に学習するなら必携の一冊。




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